蜜恋ア・ラ・モード
そして10分後───
私はかろうじて許されたバスタオルを巻いて、お湯に浸かっているのだけれど。
納得して入ったわけじゃない私は、バスタブの隅っこで薫さんに背中を向けていた。
「そんな隅にいないで、もっとそばに来て。都子さん」
「む、無理」
「何もしないって言ってるのに」
いつまでたっても薫さんの方を向かない私に、薫さんは呆れたような声を出す。
何もしない?
そんな言葉に、騙されたりするもんですか!!
いくら敬語を使ってしまった罰だとしても、嫌がる私の服を無理やり脱がそうとしたり、『僕の服を脱がせて』なんていきなり高度なお願いをしてきたり。
薫さんのことは大好きだけど、まだお互いの気持ちを伝え合ったばかり。
今日の今日でこの展開は、早過ぎると思うわけで。
声は出さずダメだと頭を横に振ると、観念したのか薫さんが笑い出した。
「わかったわかった。でも顔だけは見せてくれない?」
薫さんのお願いに、それもそうかと身体に巻きつけているバスタオルの胸のあたりをぎゅっと掴むと、ゆっくり振り向いた。
透かさず交わる視線。
薫さんの優しく微笑み私を見つめる瞳に、ドキッと心臓が鳴る。
今まで躊躇していたのは何だったのか。
恥ずかしいのに、彼のそばに寄りたい……。
こんな気持ちになるのが久しぶりすぎて、まるで初めての時のように身体が震える。
すると薫さんは私の心を読み取ったのか、全てを見通したような瞳を向けて私に手を差し伸べた。