甘い恋の始め方
「あ、あの、困ります。やることが――」

「今にも倒れそうなのに、なにを言っているんですか」

悠也にやんわりとたしなめられ理子は押し黙る。

「責任者は?」

そこへ課長が慌ててやって来た。

「彼女は早退させていただきます」

「はい! もちろんです」

課長は大きく返事をすると、ズボンのポケットからハンカチを取り出して汗を拭う。

「まだ帰れない――」

抵抗の言葉を口にすると、悠也は顔をおもむろに理子の耳元に近づけた。

「言うことを聞かないと抱き上げるぞ?」

「それはもっと困りますっ」

耳にあたる悠也の心地よい低音の声にお腹の奥がぎゅんと痺れる。

(どうしよう。ぼうっとする頭なのに、もっと彼の魅力でおかしくなっていきそう……)

「つべこべ言わずに行きましょう。理子さん」

今度は部屋にいる者にも聞こえる声でにっこり笑いながら言うと、バッグを持ち空いている方の手で理子の腰を抱くようにしてドアに向かう。

「あ、藤井さん。理子さんのパソコンをよろしくお願いします」

部屋を出るとき悠也は振り返り、口をポカンとあけたままの加奈に頼んだ。

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