甘い恋の始め方
「……いたらここへは来ません」

「確かにそうですね。でも、今の彼氏では結婚後が不安で、好条件の男性を探す女性もいますから」

悠也の言葉に理子は一瞬固まる。

「すごい勘繰りですね。ご自分は好条件だと自慢しているみたいに聞こえますけど」

悠也の皮肉が癪に障り、仕事のことを考えたらこんなことは言ってはいけないのに、理子は言ってしまっていた。

「たしかにここにいる参加者よりは好条件だと思っている」

「すごい自信家なんですね。そこまで言いきると、何も言えなくなります」

理子は折れることでこの話を終わりにしたかった。

久我副社長の女性の噂は会社では絶えることなく聞いている。

(あなたには恋人がいるんじゃないの……?)

そこで、あずさの合図があり、話が中断された。

「では、気になった方のお名前をこの用紙にご記入なさってください」

アシスタントの女性スタッフが用紙を配る。

アシスタントも久我副社長の前では気のせいなのか、にっこりとゆっくり手渡しているように見える。

用紙を手にした理子は困った。

(誰を書こう……)

悩むほどの時間はない。理子はひとりの男性の名前を書いた。


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