甘い恋の始め方
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仕事を20時で終わらせた理子は自宅に戻る気分にもなれず、あてもなく代官山のショップをふらふら見ていた。

ハロウィンが終わったと思ったら、すぐにクリスマス仕様の街並みに変わっていてすでに見慣れた光景だ。

篠原社長の言葉がガラスのかけらのように胸に突き刺さり、街並みの雰囲気を楽しむことが出来ない。

幸せな魔法が解かれてしまった気分なのだ。

「はぁ……」

無意識にため息が出るのはもう数えきれないくらいだ。

クリスマス・イブは五日後。どことなく街全体と恋人たちは浮き足立って見えるのが羨ましい。

(篠原社長に会うまでは私も浮き足立っていたのに……)

今頃、悠也はなにをしているのだろうかと、気にもなる。

店のショーウインドーに映る自分の姿。

(いけないっ、背中が丸まってる)

びしっと背筋を正し歩き始めるものの、そこで再びため息。

「理子……さん?」

その声に驚いて振り返ると、紺色のジャケット風のコートを着た浩太が立っていた。

「浩太君……」

気まずいような顔つきで、浩太は鼻の頭に指をやる。


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