甘い恋の始め方
「……」

(腕に抱かれていると、居心地が良くて……ずっとこうしてくれれば……なにもかもかまわなくなる……)

「理子?」

「……もちろん、良く考えてのことだと思います。でも、本当に私でいいのか……考えてほしいんです」

「君は? 理子は俺でいいと思っている? それとも俺と結婚したくなくなった?」

(悠也さんじゃなくてはだめ。でも、私から逃げられるきっかけを与えたい)

「もしかして、康子さんの嘘を悩んでいるのかい? それなら昨日話してもらって安堵したところだった。結婚を急がされたが、結果君に会えた」

(けれど、愛されてはいない……)

理子は悠也の腕の中で目頭が熱くなり、泣き出してしまいそうだった。

「デザインは明日だ。食事をしてからドライブしよう」

******

ふたりの最後の夕食かもしれないと、嫌な雰囲気にしたくなくて理子は精一杯、場が和やかになるよう努めた。

銀座の寿司屋で食事をしてから、悠也は湾岸地帯に車を走らせていた。

30分後、悠也が車を停めた場所はシーンと静まり返った工場地帯の埠頭だった。

遠くに見える何隻かの船から灯された明かりが海面に色をにじませている。

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