甘い恋の始め方
「あ……」

「105号室の小石川理子さんですか?」

ふたりに割り込むように若い警察官のきびきびと低い声がした。

「はい。そうです」

理子は恨めしそうに転がっている物を見てから、警察官を見た。

「50分くらい前まではご自宅にいたとか。出かける前に不審人物は見かけませんでしたか? 見慣れない人とか、挙動不審な者など」

理子は出かけるときを思い返すが、誰も見ていない。

「いいえ。私が出かけるとき、通りに出るまで誰にもあいませんでした」

部屋の中の確認をさせられ警察官に聴取を受けている間に、悠也は理子が買ってきたものを拾う。

(ひとりで祝うつもりだったのか?)

逆さまになったケーキの箱を拾い上げると、悠也の胸は締め付けられた。

(この想いは……)

悠也は自分の想いに気づく。

理子の方を見ると、ちょうど若い警察官が離れひとりになるところだった。

悠也は理子に近づくと、性急に手首を掴んだ。

「悠也さん?」

掴まれた手首を見てから、困惑したように悠也を見る。

「行こう。部屋の鍵は閉めたね?」

とっさに鍵は閉めたと頷くが、どこへ連れて行こうと言うのだろうか。

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