甘い恋の始め方
(どうしようか……)

「迷っているんですね。行きましょう!」

浩太の手ががっちりと理子の腕を掴み、カフェの出口に向かった。

「ちょ、ちょっと! 誰かと待ち合わせなんじゃないの?」

有無を言わさず歩く浩太に声をかける。

「いいえ、外から理子さんが見えたので入ったんです」

(なんて直球なんだろう……)

ふんわりした見かけとは違う強引なところが浩太にはありそうだ。

カフェを出ると、何となく家とは反対方向に足を向けていた。

「お腹は空いていないですよね?」

「まあ……サンドイッチを食べたから」

「じゃあとりあえず昔話をしながら歩きましょう!」

浩太の調子良いテンポに乗せられて、理子は頷く。

「翔さん、来年の1月からミューズの店長になるんですよ」

「ふうん。そうなんだ……」

「……よかった!」

「えっ?」

彼はヒールを履いた理子と同じ目線だ。

「翔さんの話をしても理子さんの表情が変わらないから。むしろ嫌っぽい? そんな感じだから」

「正直、翔のことなんて何とも思っていないから話さないでいいのにって、思ってたの」

ゆっくり歩くふたりはおしゃれなお店が建ち並ぶ通りを折れ、自然と目黒川の方に向かっていた。


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