甘い恋の始め方
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姿見の前で、仕事用のネクタイから少し華やかなネクタイに結びなおしている男がいた。

そんな彼を楽しそうに見ている社長の篠原友則が口を開く。

「今日も見合いか……もう何回目だ?」

「両手じゃ数えられませんよ」

ネクタイを結び終えた悠也はリクライニングチェアの背に身体を預けた。

端正な顔に苦笑いを浮かべている。

「しかも今回は1対1の見合いじゃなく、婚活パーティーに申し込まれたんです」

「叔母さんらしいな。それに抵抗できないところもお前らしい」

「まあ、そうですね。叔母には逆らえないんですよ」

叔母からお見合い、そして婚活パーティーを強要されている男、久我悠也は33歳のIT企業の副社長。

この年になるまで何度も恋愛経験していたが、心から好きだと思える女性に誰も思えず、気楽な独身生活を送っていた。

そんな悠也に叔母、康子(やすこ)が結婚をさせたがるのには理由がある。

今年の夏、康子は胃ガンになってしまったからだ。

余命1年と少し。

彼女は悠也の父の妹で、ファッションデザイナーとしてバリバリのキャリアウーマンだった。

現在もウエディングドレスなどを手掛け、一流有名デザイナーとして活躍していた。

そんな康子は悠也の両親が突然の不慮の事故で亡くなると彼を引き取った。

それからずっと独身をつらぬき、悠也を育てた。
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