恋踏みラビリンス―シンデレラシンドローム―
「ごめんなさいね。お財布の事情考えてあげなくて。
部屋もないんでしょ? 今どこで暮らしてるの?」
まさか漫画喫茶とかぁ?と楽しそうに笑う坂下さんを見ているうちに、元カレはなんでこの人を選んだろうと思う。
ボロボロになって戦意もないような状態の相手にさらにナイフを向けて笑いながら刺すような人が好きなんだろうか。
こういうの、女の醜悪とか言わないのかな。
というか、彼氏の前じゃ普通出さない部分じゃないの? いいの? と心配にさえなってくるほど坂下さんは私に悪態をつき続ける。
「カイくん、大野さんといても何にも面白くないっていつも愚痴ってたのよ。
知らないでしょ」
そう言ってグラスに入った透明なお酒をゴクゴク水みたいに飲みほしてから、坂下さんが挑発的に笑った。
「カイくんに惚れ込みすぎてて何でも言う事聞くのもつまらないし、夜の方もつまらないって。
それに比べて私は最高だって、ずっと言ってたの」
知らなかったでしょ、とくすくす笑う姿に、何かが胸に詰まる。
悔しいとか悲しいとか、もちろんそういう感情もあるけど、名前を持っていない巨大な何かが胸をいっぱいに押して、喉が詰まって息がうまくできない。
だけど苦しさに歪めた顔なんて見せたくなくて。
そんなの、絶対に嫌で。