恋踏みラビリンス―シンデレラシンドローム―
「待ってよ、大野さんっ」
大きな声が静かな店内に響いたせいで、私以外のお客さんまで振り向いていたと思う。
振り向いた途端、表情を歪めている坂下さんが目に入って驚いた。
さっきまで終始私をバカにしたような笑みしか浮かべていなかったのに。
「カイくんに振られたからって、もう他の男とって……」
信じられないとでもいった様子の坂下さんを見ていると、和泉くんが関係ないし行こうと促す。
歩き始めた私たちに、坂下さんはまた大きな声を響かせた。
「結局、大野さんだって他に男作ってたって事じゃない! 被害者面してたくせに!」
響いた声に今度足を止めたのは和泉くんだった。
立ち止まった和泉くんが、坂下さんを振り返って刺すような視線を向ける。
「誤解されると嫌だから言っておくけど、こいつは恋人がいながら他の男に手を出すような軽い女じゃない。
俺の部屋にきたのも、その男に追い出された日が初めてだ。
それまで莉子がどれだけ献身的に尽くしてたかはその男がよく知ってるハズだろ」
和泉くんの言葉に、元カレが眉をしかめて視線を落とす。
「そっちと一緒にするな」
落ち着いた声で、だけど強く言い切った和泉くんに坂下さんが押し黙る。
「今後一切、莉子に関わるな」
坂下さんはその後何かまた叫ぼうとしてわなわなしていたけど、和泉くんは立ち止まろうとしなかった。