いとしいあなたに幸福を
「京、いい子にしてたか?」

「うんっ」

仔犬のようにはしゃぐ息子を抱き上げてやると、京は眼を輝かせて両腕を伸ばした。

「とーしゃま、たかいたかいー」

「はいはい」

――二歳になった京は、女性ばかりの使用人に囲まれて育ったせいか、早いうちから良く喋る。

まあ邸に勤める使用人の過半数は女性なのだから、仕方がない。

覚えていないが多分、自分もそうだったのだろう。

自分がほぼ咲良一人の手で育てられたのだが、京にはもう一人――愛梨がついている。

「あれ、そういえば今日は愛ちゃんがいないな?」

愛梨はいつも京の傍にいてくれる。

彼女は本来非番の日も、京が遊びたがるため、結局は毎日休まず京の面倒を見ていることになる。

「あの、愛ちゃんは…」

咲良は事情を説明しようとしたものの、戸惑いがちに口籠る。

「…?」

「あのね、とーしゃま」

くいくいと襟を引っ張られて京の顔を覗き込むと、京は少し困ったように首を傾げた。

「あいちゃん、ぼくのかあしゃまだよね?」
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