いとしいあなたに幸福を
「ええ…京くんはずっと待っててくれてたから」

ずっとずっと自分のことを母として待ち望んでくれていたこの子のために、愛梨は良き母親になりたいと思った。

――ただ、一つだけ愛梨は京にお願いをした。

京を産んでくれた“母様”は、都唯一人だけだから。

母様と呼ぶのは、都だけにして欲しいのだと――

そう告げたとき、京は一瞬だけ複雑そうに目を伏せると都に良く似た優しい笑顔を浮かべてこう言った。

『うん…わかったよ、母さん』

嬉しそうな京の気持ちに、水を差すようなことは言いたくなかった。

けれど愛梨は京にも、命を懸けて彼を産んでくれた母親の存在を大切にして欲しい。

きっとそうすることでしか、都が遺してくれた想いに報いることは出来ないだろうから。

「…京くんはきっと、最初から都様のことを解ってたんだと思うんです」

「まあ、俺の霊力を受け継いでいれば何かしらの直感する才能は持ってるんだろうが…京には今のところ霊媒師としての才能は見られないぜ?」

「ううん。京くんは、きっと…」

京は都の予知能力を受け継いでいる。

生前の都が話してくれたのは、京が言っていた“弟”の話と同じだ。

だが、都はその力を持つことを周には話さなかったらしい。

…恐らく彼女は、既に自身の死期すら予見してしまっていたのだろう。

あのとき、都はどんな想いで自分に微笑み掛けてくれていたのか――
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