いとしいあなたに幸福を
「は、はいっ…」

周は悠梨と愛梨のほうを振り返ると、再び笑顔を作って見せた。

「悠梨、話の途中で悪い」

「あ…いや、気にするな。それより早く行ったほうがいい」

「有難うな。また、すぐ来るから」

そう言い残して、周は美月と呼んだ少女と共に出ていってしまった。

「――ねえ、お兄ちゃん」

「ん?」

「あのひと…とっても優しいひとね」

「ああ。俺たちの命の恩人だ」

あの状況下で周たちと出逢えたのは、正に不幸中の幸いと言える。

少しでも彼らとの遭遇が遅れていたら、二人共あの追手に捕まっていた頃だろう。

「あのひと、領主様の息子なんでしょ?…薄暮の国のあのひととおんなじ立場なのに、全然ちがう…」

「うん…そうだな」

薄暮の領主子息、架々見。

奴は、何が楽しくてあんなことをしているんだろう――

「え…ちょ、ちょっと待って。薄暮の領主様が何だって?」

すると悠梨とは愛梨を挟んで反対側に座っていた陽司が、困惑した様子で声を上げた。
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