【完】『いつか、きっと』
葵祭の時期が来た。

エマは翔一郎に、

「そういえばうちら、新婚旅行って行ってなかったよね」

とふと漏らした。

「そうやったな…」

ごめんなエマ、と翔一郎はエマを優しく抱きすくめ、

「仕事が落ち着いたら、旅でも出ようか」

と言い、エマの髪をやわらかく撫でた。



その頃。

愛と薫子、ブラウンとジャックの親子づれ同士は、連れ立って平野神社の境内で薫子とジャックを遊ばせながら、敷物を敷いて弁当を広げ始めていた。

すでに葉桜の頃である。

人はまばらで、地元の老婆が杖をついて散歩をするぐらいののどかさであった。

「ブラウンさんはいつから京都に?」

「去年来ました。薫子ちゃんのお母さんは?」

「私は…引っ越して来たのは今年。でも」

その前に京都には住んでた時期があるから、と愛は、少し話しづらそうに言った。

どこまで話したら良いのか、はかりかねたのである。

「そうですか」

またこうやって子供たちを良かったら一緒に遊ばせてあげましょう、とブラウンはにこやかに言った。

御神木の根元で薫子とジャックは走り回っている。

眼鏡ごしの目は、笑うと細くなった。



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