【完】『いつか、きっと』
エマたちの京町家の玄関に置かれた紫陽花が見頃を迎えた六月、翔一郎とエマは萌々子と慶の結婚式に参列するため西陣を発つことになった。

「薫子がいるから、参列は無理かも」

と言っていた愛も、革のボストンバックを手に京都駅にいる。

「良かったよね、ブラウンさんが薫子ちゃん預かってくれることになって」

「さすがに京都から横浜はね…」

幼子を共に連れて行くには遠すぎる。

「うちらからも、何かブラウンさんに土産なり買わなアカンな」

翔一郎は言った。



新横浜から地下鉄に乗ると、二十分もかかるかかからないかの速さで関内の駅に着いた。

「みんな久しぶりー」

改札口には慶のいとこの、姓が實平から変わった陣内あさ美がいた。

「あれ? 陣内さんは?」

「あ、カズはニューヨークなんだよね」

政府の文化交流の活動の一環として、アメリカに派遣されていたのである。

「あれホントは、カズってば翔さんを推薦してたんだよ」

「…えっ?!」

翔一郎は瞠目した。

「それが何か知らないけどカズが行くって決まって、それで四月からニューヨークってこと」

「さすがは先輩、芸大の出世頭やなー」

翔一郎は素直に感動したらしいが、

「あのさ翔さん、もう少し悔しがらないとダメだって」

でもそういう欲のなさが、エマちゃんには魅力なんだろうけどね──とあさ美は笑った。




< 8 / 21 >

この作品をシェア

pagetop