【完】『いつか、きっと』
スタジアムの脇を県庁の前へ出て、大桟橋を山下公園の方に歩いて行くと、山下公園の木々の向こう側に、白い洋風の古色あるホテルが見えてきた。

「スゴい豪華なホテルだね」

予算とか大丈夫なんかな、と翔一郎は下世話な言い方をした。

「だいたい相場が三百万って言ってたよ」

うちらが上賀茂神社で挙式したときなんか十万ぐらいだったのに、とあさ美は、何とも身も蓋もない言い方をした。

「上賀茂神社で挙式だと、そんな安いの?!」

エマがこれには驚いた。

「衣装はグラビアのときにお世話になったスタジオに借りたし、カズは羽織袴を高知の実家から送ってもらったしで、だいぶ安かったし」

ホテルの大階段を登って、割り当てられた控室でエマと翔一郎は、それぞれ着替えた。

エマは葡萄色が映えるワンピースのドレスに蝶のスワロフスキーのブローチ、翔一郎は前に裏寺町の古着屋で買った紺色の丹後縮緬の無紋の御召に銀鼠の袴、といった出で立ちである。

少し、寸暇が取れた。

「目の前の公園でも行こか」

そう言うと、山下公園まで出てベンチに二人で腰を下ろした。

海が見える。

「ね」

「ん?」

「京都に帰ったらさ、いつかちゃんとした挙式したいね」

そういえば挙式らしい挙式は、あげていない。

でもその前に、とエマは、

「愛ちゃんとブラウンさんって、どう思う?」

翔一郎に訊いてみた。

「おれは悪い縁ではないと思うんやけどな」

エマは?──翔一郎が訊いた。

「悪くはないと思うよ」

だって優しそうだし、とエマは答えた。

「それならええんやけど、まぁあとは本人の気持ちかも知れんわな」

翔一郎の目線の先には、象の鼻の姿をした埠頭が見えた。




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