龍神様との恋愛事情!
「千早様の…バカ…」
小さく呟いた瞬間、涙が頬を伝った。
「沙織…?」
私の涙に気づき、伊吹様が空中で一時停止する。
どうしよう。
涙が止められない。
悲しいという感情が喉から溢れ出て嗚咽に変わる。
あんな短い言葉にこんなにもショックを受けるなんて……悲しいなんて…。
私、千早様のこと……。
「……お前…」
私の泣き顔をジッと見ていた伊吹様が、何か言おうと口を開いた時だった。
私達の頭上から千早様が急降下してきた。
「えっ……きゃあ!!」
いつの間に上空に回っていたんだろう?
千早様は急降下と同時に私を伊吹様から奪い取った。
「黄龍っ…!」
悔しそうに伊吹様が呻く。
「沙織は、渡さないっ」
さっきとは違う、力強い声にドキッとして千早様を見上げた。
彼の黒い瞳は伊吹様を睨んでいる。
そこに宿る思いは怒りや嫉妬。
普段、常に余裕そうに微笑んでいるから、こんな表情は貴重だ。
「……厄介な存在だな、お前は」
伊吹様が無表情で言った。