腕枕で眠らせて*eternal season*



……この人は、とても強い。


その事に、初めて気付いた。



彼は自分が万能で無いことを知っている。

自分の手が守れるものに限界があると云うことを。

至らない自分の弱さを知っている。


だからこそ。この人は守るべき者に全身全霊をかけて、優しく、誠実にあろうと努力している。


冷静過ぎるほどに割り切って見せた万引き犯への対応は、彼自身にも自分の弱さを突き付けた筈だ。彼女を救う余裕など自分にはないのだと。


その傷みを受けとめて、彼は守ってるんだ。

このお店の全てを。彼にとって大切なものたちを。



「オーナー…すみません。私ちょっとオーナーの事、誤解してたかも」


「え?どうしたんですか?急に」


「あはは、ちょっとね。見直しましたよ」


さっきまで深刻な顔をしていた私が急に笑い出した事に、オーナーは目をしばたかせ不思議そうな顔をした。


その表情はすっかりいつもの彼で…私の胸は安堵と、なんとも言えない嬉しさでいっぱいになっていった。





ヤバい。好きになっちゃったかも。


優しさの裏に隠された彼の強さ。

それに気付いた時から、私の恋心は自覚をもって加速していく。


いったん火が着いてしまえば、魅惑的な彼に堕ちていくのは容易い事で。


「参ったな、カレシどうしよ」


仕事帰り、カレシの待つアパートへ帰る道でそんな事を呟きながらも私の胸は新しい恋に踊っていた。




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