腕枕で眠らせて*eternal season*
しばらくすると、裏口からやって来た警察が犯人を連れて行ったようで事務室が静かになったのが分かった。
「山下さん、ちょっとごめん。裏行ってくる」
店内の客足が途絶えたタイミングを見計らって事務室へと戻る。
ノックしてそっと入った部屋では、オーナーがいつもと変わらない様子でデスクに向かっていた。
「…オーナー。さっきの人は…」
「警察に引き取ってもらいました」
躊躇いがちに聞いた私の質問に、彼はパソコンのモニターから目を離さないまま淡々と答えた。
やっぱり意外に思えるその冷静過ぎる態度に、私の本音が口をつく。
「…あの人、ちょっと可哀想でしたね。警察は保留にしてあげても良かったんじゃ」
それを聞いたオーナーのキーボードを打つ手が止まった。
そして振り返り
「玉城さん」
呼び掛けながら真剣な眼差しを私に向ける。
「僕の仕事は雑貨店の経営です。
良い品物をお客様に提供する事、その為に従業員が働きやすい環境を作る事が僕のするべき事です。それ以外の事に割く時間はこれっぽっちもありません。
万引き犯へのお説教も更正も僕の仕事ではありません。貴女がする事でもありません。警察に任せるべき事です」
初めて聞くその厳しい口調に、私の背筋が突き抜けるように冷たくなった。
「……すみません」
店を任された者として、意識が低かったと突き付けられる。
けれど
頭を下げた私を見て、彼はふっと表情を弛めると
「でもあんなに泣かれると参ってしまいますよね。正直、後味が悪いです」
と、本当に困った顔をして大きく息を吐き出した。
その姿に、私が中の何かが大きく動いた。