“ブラック”&“ホワイト”クリスマス

「どうして…!!」


 拳を繰り出しながら、アンジュは叫ぶ。


「どうしてこんな事になってんのよ、バカ!!」

「………」


 ブラックは、アンジュの攻撃を軽く避け続けている。

 向こうから攻撃は仕掛けて来ないところを見ると、このまま時間を稼いで日付が変わるのを待つつもりなのか。

 アンジュはぐっと腹に力を込めて。

 右上段に蹴りを繰り出すと見せ掛けて一旦足を引き、ブラックの鳩尾に向けてパンチを繰り出した。

 今度は避けきれず、ブラックはアンジュの攻撃を自らの手で直接受け止めた。

 その手を掴まれて引くに引けず、アンジュは至近距離でブラックの顔を見上げた。

 そこで初めて、ブラックは訝しげな声を出す。


「……泣いてんのか?」

「……っ!!」


 アンジュは手を引き、今度はフェイントではなく上段蹴りを真っ直ぐに繰り出す。

 思いがけずそれはヒットして、ブラックは後ろに尻餅をついた。

 その拍子に、アンジュのポケットからキーホルダーが地面に落ちる。

 ブラックは、そのキーホルダーをゆっくりと拾い上げた。


「何よ…くれるんじゃなかったの?」

「見れば見るほど似てるよな、これ。だけど」


 そう言いながら立ち上がり、アンジュの手にキーホルダーを握らせる。


「泣き顔のアンジュには、似てねぇよ。笑った顔が、この天使にそっくりなんだ」


 その時、噴水の周りを囲むようにして立っている木々にイルミネーションが灯った。

 アダムは苦笑する。


「さすがと言おうかね、組織「ホワイト」のメンバーは。俺の部下、全滅したんだな」


 アンジュはキーホルダーを握り締めたまま、黙っている。


「だが、あと2分で日付が変わる。この噴水のイルミネーションが灯らなきゃ、俺達「ブラック」の勝ち、だな」

「…そんなこと…させない…!!」


 再び低く身構えるアンジュ。

 そこへ、スッと、何かが差し出された。


「メリークリスマス。喧嘩しちゃダメですよ…今夜だけは、皆がハッピーに過ごさなくちゃダメなんです」


 見ると、街で会ったサンタクロースが、ピンクのハートの形をした風船を持って立っている。

 その後ろには、クロシェットとレンヌの姿も。
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