“ブラック”&“ホワイト”クリスマス
「ノエル…」
涙を拭いて、アンジュは呟いた。
「ホント、女の子を泣かせるなんて…最低ね、アダム」
クロシェットは腕組みをしてこっちを見ている。
「この噴水の前で、っていうジンクスは知ってますよね、2人とも?」
クロシェットの隣に立ち、レンヌは笑っていて。
サンタクロースの格好をしたノエルは、風船をアンジュの手に握らせた。
「もうすぐ日付が変わる。アンジュ、ちゃんと伝えるんだよ」
アンジュは、ハート形の風船と、手に持ったままのキーホルダーとを、交互に見つめた。
日付が変わるまで、あとほんの数秒。
「あー!! ったくよー!!」
アダムが、いきなりネクタイを緩めて頭を掻きむしる。
同時に、噴水のイルミネーションが煌々と灯った。
「こういうのは、男の方からリアクション取らせてくれねぇかなぁ…」
一気に明るくなった景色に目を細めていると、アンジュの身体が何かに引き寄せられた。
「アンジュ。ずっと前から、お前の事を見てたんだ。俺と…付き合ってくれないか?」
抱きしめられた耳元で、アンジュにしか聞こえないくらいの小さな声で囁かれて。
アンジュは思わず、風船を手放してしまう。
だけど、キーホルダーだけはしっかりと握っていて。
その時、何処からか鐘の音が聞こえてきた。
「日付が変わった。今年は「ホワイト」の勝利だな」
ポケットからスマホを取り出して、ノエルは言った。
どうやら、鐘の音はノエルのスマホのアラームだったらしい。
だがすぐに、クロシェットにたしなめられる。
「ちょっと、勝ち負けなんてどうでもいいでしょ、ノエル。しかもアラームとか…少しは空気読みなさいよ」
「というか、スマホ買ったんですか、ノエルさん?」
レンヌが言った。
「まさか…ツイッター知らなかったから悔しくて…?」
「そっ…そうじゃない! 俺のガラケーがだな、今日たまたま調子が悪くなってだな、たまたまショップもクリスマスセールで」
クロシェットのツッコミを慌てて否定するノエル。
そんなやり取りを見て、アンジュは思わず吹き出してしまう。
「やっぱお前、笑ってた方がいいな」
アダムはアンジュの涙を拭いながら言う。
鐘の音は、いつまでも鳴り止まない。
「どっ…どうやったら止まるんだこれ!?」
「も~ノエル、うるさいわよ!! ちょっとこっち来なさい!!」
クロシェットに引きずられるようにして連れて行かれるノエル。
「帰ったら一緒に飲み直しましょうね、アダム。アンジュも、ケーキがまだ残ってますから」
そう言い残して、レンヌも向こうへ歩いて行った。
そこで初めて、まだ抱き合ったままだという事に気付いたアンジュはたじろぐ。
だが、アダムはアンジュを離さない。
幻想的なイルミネーションの中心で、2人は見つめ合った。
「メリークリスマス、アンジュ」
アダムはそう言って、アンジュの口唇を引き寄せた――。
【end】
