jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
「久しぶり~! 愛しの蕾!」
その声が聞こえてきた瞬間、香さんは青筋が立ちそうなほど、不機嫌な顔をした。
頬にキスを仕掛けてきたのは、金の龍だった。
「皆さん、ご無沙汰です」
龍の下部こと、弟子の秀斗が礼儀正しく挨拶した。
2人とも、久々に日本に戻ってきたのだ。
ペットショップと、美容室のオープンを祝おうと駆けつけてきてくれた。
正式なオープンは明日からだ。
志音の美容室の店名は『dressed.man』だ。
本人曰く、これは男装を意味しているらしい。
店内はコテコテのパンクデザインだ。
しかも、黒と髑髏のオンパレードであるため、初めて足を踏み入れる客は、お化け屋敷に入るくらいの度胸と心構えが必要だと思われる。
ペットショップは、前と全く同じデザインにしてもらった。
店が、そのままワープしてきたくらいに瓜二つだ。
店内の配置も、動物や物品の置き場所も全て同じ。
あのカウンターも椅子も、お婆さんが使っていたものを再利用した。
わたしとお婆さんの思い出を、無理やり回想しなくてもいいのだ。
この空間にいるだけで、思い出すことができる。
店内の香りは、まだ真新しいが、時を重ねるごとに、懐かしい香りに変化してくるだろうと期待している。
そんなことをぼんやり考えていると、乳母車に乗った真論が大声で泣き出した。
香さんがガラガラを取り出して、あやしても全く効果がなかった。
そう、真論は普段あまり泣かないが、1回泣き始めるとなかなか泣き止まない。
おもちゃやおしゃぶりもお気に召さないようなのだ。
わたしと香さんが抱っこしても、いつも泣き疲れて寝付くといった感じだ。
親2人が苦戦していると、志音が真論を抱っこした。




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