jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
それから、わたしたちの夜遊びの日々が始まった。
いつの間にか、日曜の夜は志音に捧げる時間となった。
秀斗と会うのは、土曜の夜と日曜の昼に再変更され、香さんとはメールをするだけになった。
香さんと秀斗、マロン、みんなわたしにとって大切な存在だが、志音は特別だった。
親友だけど、恋人チックな気分にしてくれる。
寂しげにしていると、ギュッと抱き締めてくれたり、頭を撫でてくれたりした。
そして、お姫様扱いもしてくれた。
Sっ気が強いくせに、買物袋の持ってくれたり、他にもあらゆるところでエスコートしてくれるのだ。
彼女はSのジェントルマン・・・・・・いや、優しいS悪魔と表現すればしっくりくるだろう。
ひんやりした無味の世界に、バニラエッセンスを振りかけてくれるようだった。

今日もいつものように、買い物や食事などして遊んでいたが、急に志音は言った。
「家に来い」
わたしは目が剥き出しになりそうだった。
何の心構えもできていない。
「えっ! えっ~! こんな夜に・・・・・・ご両親に悪いよ」
本音は断りたいわけではないが、いちよう社交辞令を短縮して並べた。
「いない。1人暮らし。わたしがアルバイトでいるのは、よく旅をするから。次々に住み場所を変えるから」
「そうなんだ。また引っ越しちゃうの?」
沈痛な面持ちで俯くと、志音はわたしを人ごみの少ない路地へと引き込んだ。
そして、縄で縛られるくらいに固く抱き締めてきた。
いつもにない力強さに驚いたわたしは、身じろぎをした。
「動くな・・・・・・。わたしはいつも1年くらいでその場を去る。だけど今回はここに来て2年が経つ。なぜか、まだ離れてはいけないような気分になっていた。誰かがわたしを必要としているような。それか、わたしが誰かを必要としているような錯覚に陥った。だけど、それは幻想物語ではなかった。蕾、今日は来てくれ」
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