jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
相変わらず、惹きつけてやまないその鋭い瞳、だけどマイルドな印象も受けるのは、志音と仲良くなってきた証拠のような気がした。
「分かった。いいよ。だから、力ちょっと緩めて・・・・・・」
そう言って軽く微笑むと、志音は安心したようにわたしを束縛から解放し、優しく包み込んだ。
「行こう」
いつものように差し伸べてくる志音の固く細い手に、そっと自分の柔らかい手を重ねた。

志音の住むアパートは美容室からさほど遠くなかった。
どちらかというと、わたしよりめんどくさがりなので、通勤時間を短縮させたのだろう。
築何年だろうか?
薄いエメラルドグリーンの壁面は所々が剥がれ、地の白色が見えていたり、錆びたような色の部分もあった。

階段を上って、3階に辿り着いた。
そして、4つほど扉を通り越して行き着いた先は、308号室だった。
名字は・・・・・・灼八だった。
尺八だと思っていたので、微妙にがっかりしたわたしだ。

キーには髑髏の飾りが付けられていて、それがあまりにもリアルだったので、少し鳥肌が立ってしまった。
室内はお化け屋敷並みなのかと心配になったが、入ってみると、黒で統一されたロックテイストの1LDKの部屋だった。
(服装と同じだな)
志音は自分の世界を作り上げるのが、生きがいなんだと思った。
人に影響されることも、頼りにすることもなく、ひとりで坦々と生きていける志音が羨ましくなった。
わたしも志音のように、気持ちの面でもお金も面でも独立していたら、結婚に籍という法律でがんじがらめの生活なんて送らなくていいだろう。
今のわたしは、自由に至高の魅力を感じていた。

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