プリーズ・イート・ミー
桐谷さんからの思わぬ提案に、わたしは驚き、少し戸惑った。


「営業、やってみたいと思ってたんじゃないのか?」

「あ……」


実はわたしは入社時は別の部署にいた。それが2年前に食品部に配属されて……。
そのせいか他の同期から遅れをとっているような気がしていたのだ。

後輩ですら、自分で契約を取ってくることもあるのに。
いつまでもアシスタント的な仕事しかしていない自分がうしろめたかった。
もちろんそれだって大事な仕事には違いないのだけれど。

とにかく、そんなわたしの焦りに、桐谷さんは気づいていてくれたのかもしれない。


「やります! やらせてください!」

「まぁ、キャリアアップにはなるな。だけど、いっとくが、甘くないぞ営業は。顧客の中には個人経営の料理店も多い。中にはすげぇ頑固なおやっさんとかゴロゴロいるからな。機嫌そこねるなよ」

「はいっ。頑張ります」

「まぁ、お前なら大丈夫か。どれだけ怒鳴ってもめげないもんな。お前の根性だけはかってるよ、オレは」


桐谷さんはそう言うと、助手席に座るわたしを見て優しく微笑んでくれた。

その表情を見て、今さらながらに気づく。


「もしかして……わざとだったんですか? わたしのこと鍛えるために、厳しくしてたんですか?」

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