雪の足跡《Berry's cafe版》

「あ、板」


 八木橋からチューンナップが終わったと連絡をもらったのを思い出した。別れたのに板を預けて置くのも悪いと思った。八木橋にメールする。


『板、取りに行くから』


 いつ行こうかとカレンダーを見る。来週か再来週か……どちらにしたって八木橋から板を受け取ったら最後になる。最悪、処分したとか宅配便で既に送ったと言われたらもう会うことすらない。

 手にしていた携帯が鳴る。八木橋からの着信だった。


「もしもし」
「着信拒否したんじゃなかったのかよ」
「あ……うん」


 無愛想な八木橋の声。いつもの声にホッとしたけど、あと何回聞けるかと思うと胸が痛くなった。


「いらないんじゃなかったのかよ、板」
「うん……。もしかしてもう処分しちゃった?」
「いや」


 八木橋のひとことひとことを耳に焼き付ける。これほどまでに思う人を何故手放してしまったんだろう。いつ来るのかと尋ねられて来週でも再来週でもと答える。なら来週来るか?、と言われて返事をして電話を切った。

 桜を見た日に終わりにしようと言ったのは私。あの日で最後にしようと決めた癖にこうして会えることに期待する。でも来週会いに行くのが最後になる。

 でも、いい。私には思い出がある。八木橋が華麗に滑る画像も菜々子にキスされてデレた八木橋の画像も、八木橋の滑り方も体が覚えている。板だって……。


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