雪の足跡《Berry's cafe版》

 あの板のお陰で八木橋と出会えた。私の板を見掛けた八木橋はカウンターにいた私に声を掛けた、自分が開発した板を見付けてきっと嬉しかったんだと思う。

 でも私はその板で昔ながらの滑り方をした。当然八木橋は気に入らなかった。スキー馬鹿の八木橋はキツい口調で私に教えた。でもそのお陰で私は八木橋の滑り方を覚えた。楽に綺麗に滑れるようになった。

 盗まれた板を八木橋は取り返してくれた。地方予選を控えていたのに体当たりで取り返してくれた。あんな怪我を負ってまで。自分の開発した板だからという理由だけじゃない、私が大切にしていた板だから私と八木橋をつないだ板だから。もし私が元カノの身代わりだったら、きっとそこまでしていない。

 私に支えるという言葉でプロポーズして、仏壇の父に、テーブル越しの母に頭を下げて挨拶して。妊娠した私と産院に行って、まだ点でしかなかった赤ちゃんの画像を見て目を潤ませていた。大きな手を口元に当てて何度も顎を擦るようにして。ただ子供好きだからじゃなくて、私との間に授かった赤ちゃんだから……。そう思うのは自惚れじゃないって思った。


「後悔先に立たず、だよね……」


 大きくため息をつく。再び携帯が鳴る。八木橋からのメール。来週土曜日は早番だから夕方に来い、という内容だった。部屋を予約したからシャトルバスを使え、ということは書いてなかった。ただ事務的に取りに行くだけなんだと改めて思い知らされた。

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