雪の足跡《Berry's cafe版》

 喧嘩をしたのに思うのは八木橋のことばかりだった。

 どのくらいそうしていただろう、空はあっという間に暗くなった。冬至も近い、日が暮れるのが早いのも当然だった。浜から上がり、再びバスに乗り込む。何処へ行こう、行く当てなんて無かった。真っ暗な中をバスは進む。冬至、そういえば母は毎年カボチャを煮てお風呂には柚子を浮かべた。暖かい部屋、夕飯、お風呂……。浦和を出てまだ1ヶ月と経っていないのに凄く懐かしく感じた。


「帰りたい……」


 でも帰る訳にはいかない。母が心配する。経済的に苦しくても八木橋を支えるって母にも宣言して出て来たのに、それで喧嘩して飛び出してきたなんて言えない。里帰りのフリで帰ろうかとも考えたけど、着替えも土産も何も無い。用意して帰る程の現金も持ち合わせてはいなかった。

 バスは湖畔沿いの道を戻る。ふと明るい家が見えた。こないだ八木橋と寄ったカフェだった。なんだか暖かそうだった。私は咄嗟にバスの降車ボタンを押した。

 木造の家で、煙突があって、蛍光灯じゃない白熱灯の黄色い明かりに引き寄せられるように歩く。中に入ると数組の客がいた。私は無意識に八木橋と座った席に腰を下ろした。窓からぼんやりと見える湖、山々。メニューを広げて値段を見る。勿体ないって八木橋に怒った癖に何をしてるんだろう……。


「コーヒーとチーズケーキください」


 店員はお冷やとおしぼりを置くと下がっていった。こないだは目の前に八木橋がいた。今は誰もいない。


『ユキ、デザートは何がいい? チーズケーキ、種類あるぞ』


「ヤギ……」


『ヤギって言ったな。ほら罰ゲーム』


 しばらくして店員がコーヒーとチーズケーキを運んできた。こないだと同じ、焼き色が美味しそうなケーキ。

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