月の絆~最初で最後の運命のあなた~


[二]


 ――気分が落ち着かない。


 周りの人間が、携帯電話を片手に騒ぎながら写真を撮っているが、それは気にする程の事ではなかった。


 彼――月城狼呀(つきしろ ろうが)はモデルを職業としている。


 人に見られる事には馴れているし、苦だとは思わない。


 原因は一つしかないが、満月までの時間はそれなりにある。


 理解不能な気分に、狼呀は落ち着こうとポケットから小銭を取り出して、自動販売機でお茶を買った。


 取り出し口に落ちる音と同時に、扉の閉まる音が重なる。


 普通なら、気になる事ではない。


 なのに、狼呀は音のした方を振り返った。


 モデル仲間にも人気のナイトクラブ〈ヘヴンズドア〉から、一人の女が出てきた。


 人混みに紛れてしまえば、どこに行ったのか分からなくなってしまうだろうと思うほど、特に目立ったところのない容姿だ。


 モデルに見馴れ、別の場所でも色気を振り撒く女たちに囲まれている狼呀が、気にする要素はない。


 なのに、狼呀はペットボトルを手から滑り落とし、気がつけば横を通り過ぎようとした女の手首を掴んでいた。



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