月の絆~最初で最後の運命のあなた~


 一目惚れ?


 そんなのは、馬鹿馬鹿しい。一目惚れなんて、単なる妄想みたいなものだ。


 思わず速くなる足で、すぐ近くにある駅から、自宅に帰る為に電車に乗った。


 距離としては、音楽プレーヤーでアルバム1枚分を再生すれば、十分に暇を潰せる。


 時間が帰宅ラッシュと重なり、快適とまではいかないが、どうにか車両の繋ぎ目の辺りを確保できた。


 扉に寄りかかれて、背中だけは快適そのもので、あたしは少しだけ緊張を解いて目を閉じる。


 そして、イヤホンから流れる調べに身も心も任せ、電車に揺られた。


 眠りを誘発する振動に、深い眠りに入りそうになるが、一曲終わるごとに目を覚ます努力をした。


 目を開けるたびに、乗客は少なくなっていく。


 あたしが降りる駅に着くころには、残っているのは酔っぱらいくらいしかいなくなるはず。


 降りる駅が近くなり、あたしは車内に設置されたテレビに視線を移した。


 明日の天気とニュースが流れている。


「明日は……晴れね」


 ぼそりと呟くと同時に、電車は駅に辿り着いた。


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