月の絆~最初で最後の運命のあなた~




 たいした時間は必要なかった。


 すぐに緑と太陽、土と木の匂いを恋しがる心に気がつく。


 目を開けると、運転席に座りエンジンをかけて準備を進める狼呀を見つめた。


「秩父に行きたい」


「了解」


 狼呀は理由なんて聞かずに、そう言うと車を走らせはじめた。


 道路は平日ともあって、それほど混んでいる事はなく、スムーズに進んでいく。


 車内に流れる音楽は、大きすぎず小さすぎないくらいの音量で、会話がなくても心地が良い空間になっていた。こういう所は好きだ。


 何気ない事かもしれないけど、長く付き合うなら重要なことだと思う。


 人生が嫌になる前……人間が嫌いになる前の、純粋な心を持っている頃のあたしが夢見ていた理想の恋愛。


 狼呀は、見事に当てはまる。


 優しくて、男らしくて、頼もしい。


 そして、一途に愛してくれる。


 突然の幸せに、綻ぶ顔を見られないように流れていく景色を見るふりをした。




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