月の絆~最初で最後の運命のあなた~



 何も話さず歩いていると時々、犬を散歩させている家族や子連れとすれ違う。大勢の人間がいる訳ではなく、静かな時間が流れている。


 暫く歩いていくと、まるでギリシャのパルテノン神殿のような休憩所があったが、マリアは更に進んでいく。


 野外音楽堂をすぎ、冬桜の咲く広場まで行くと、ようやくマリアはベンチに座った。


「綺麗な場所だな」


 彼女の横に座りながら一言こぼすと、マリアはふんわりと笑った。


「ありがとう。昔からお気に入りの場所なの」


 風に揺れて、冬桜の花弁がひらひらと舞う姿、冷たい空気と山の気配。


 マリアが気に入るこの場所を、狼呀も好きになった。これは、マリアなりの贈り物ともいえる。


 狼呀を受け入れたという、無言の証だ。


 


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