月の絆~最初で最後の運命のあなた~
「クリームシチューとパンとステーキしかないけど……いいかしら?」
テーブルには、自然とよだれが出そうなくらい美味しそうな料理が並べられていた。
「あの……ありがとうございます。わざわざすみません」
「いいのよ。それより、食べてる間に背中の傷も見せてくれる? 足の治療が先で、背中はまだなのよ」
「背中……ですか?」
「ええ、けっこう酷くて服も破れているから、切ってもいい?」
「はい、大丈夫ですよ」
あたしの後ろに回った絢華さんは、裾を引っ張るとハサミをいれた。
ぜんぶ切り終わる頃には、少しだけ肌寒く感じた。
「消毒するから、少し冷たいかもしれないけど、我慢してね」
消毒液によって染みるところを想像して、あたしは頷くだけにした。
消毒液はたしかに冷たかった。
でも、驚くことに痛みはない。
ある程度、血が取れると傷が見えてきたのか、後ろから息をのむ音が聞こえた。
「まるで……獣にひっかかれたような傷ね」
そんな表現に驚いた。
いったい、どんな傷なんだろうか。
ほんとうにそんな傷だったとしたら、泣いていないのが不思議なくらいだ。
しかし、傷を負ったときの記憶だけがない。
もともと、嫌な事は頭の中から排除する癖があるから、そうとうな事があったのかもしれない。