月の絆~最初で最後の運命のあなた~
ほんわかとした優しい味を堪能していると、扉を叩く音が聞こえてきた。
「ちょっと、ごめんね」
絢華さんはそう言うと、急いで玄関を開けた。
木の扉が開くと、外のざわざわした音が聞こえてきて、あたしは緊張しはじめた。
大勢の知らない人間。
そう考えただけど、あたしのスプーンを持つ手が止まった。
ただでさえ人間が苦手で嫌いなのに、見知らぬ場所で見知らぬ人たちに囲まれるなんて無理がある。
「どうしたの?」
食べる手を止めたあたしを、絢華さんは不思議そうに振り返った。
「あたし……知らない人たちは」
手が振るえて、心臓の鼓動が乱れる。
気温が高すぎる訳でもないのに、嫌な汗が額に浮かんできて、気分が悪くなってきた。
そんなあたしに、絢華さんは言った。
「大丈夫よ。すぐに良くなるわ」
励ますように肩を撫でられるけど、その間にも次々と人が入ってくる。
部屋の中には声が溢れ、扉が閉まった瞬間には、心臓が飛び出すんじゃないかと思った。
そして、一人また一人とあたしに気がついたのか、話し声は小さくなり、視線があたしに向けられているのを嫌でも感じる。
顔をあげられない。
視線に何が込められているのか、受け止める勇気なんてない。
「はいはい、ぽかんとしない」
絢華さんは、あたしを隠すように立ち塞がった。