女神の災難な休日
私はそれを待っていた。次に男が凶器を見せたとき、それがチャンスだと考えていたのだった。気が弱そうなこの男が傍若無人に振舞うことがあるとすれば、心理的に上に立てる、武器を振りかざしている時だろうって。と、いうことは、まず凶器をどうにかしなくてはならないと。
だからすぐに行動を起こした。
両手を伸ばしてヤツの包丁を握る左手を引っつかむ。そのままで両親指に力をいれて、包丁を握るやつの手の甲の親指下ツボに力を入れて突っ込んだ。
「ぎゃあ!」
ビクンと強く跳ねて、やつの左手が開く。その拍子に落ちた包丁を、私はガッと掴んで体を捻り、ベビーシートの下へ放り込んだ。
痛みと展開に驚いた男の右手が緩んで車が揺れる。後と横の車が警笛を鳴らす。包丁を隠した後ですぐに振り返って攻撃をするつもりだったのが、この揺れで台無しになった。
「うわあああ!」
「ひゃああ!」
二人とも叫び、動く車の中は大混乱。私もヤツもシートベルトに体を締め付けられて痛みに唸る。とりあえずハンドルにしがみつく格好で、何とか車体を通常状態に戻した男が怒鳴った。
「何するんだ、バカ野郎!!」
「私は――――――――女よ!」