女神の災難な休日
めげてはならない。速攻で攻撃を再開。走行中の車の中で運転手に攻撃をかますことの危険性はわかっていた。だけども、この男はさっきから私を退けることより運転を優先している。その小心さに賭けることにしたのだ。うまくいけば――――――――車が停まる。
痛みで力が入らないはずのヤツの左手はシートの上で転がっている。何とかちゃんと座った私は足を振り上げて、その左手特に痛んでるはずの部分を目掛けて踏みつけた。今日履いているのは寒さよけの分厚いワークブーツ。攻撃力は大きいとみた。
わあああー!と男が叫ぶ。また車が揺れる。周囲の車がクラクションを鳴らしまくる。とにかく目立つ、命がけの行為だった。
ああどうにか、電信柱や前後左右の車にぶつかりませんように!そう祈ったのはとりあえずだ。だってある程度の怪我は覚悟していた。もうこの際、息子だけが無事ならそれでいいとさえ思っていた。
焦った男は痛みを堪えてとにかくと国道からわき道へそれるために無理やり車線変更をして左折する。その間にもぐりぐりと左手を踏みつけてやった。興奮していて必死だった。だから車の酷い揺れにも酔いそうもなかった。
道をそれたところで急ブレーキを踏んで、車は何とか停まる。ガクン!と全身に凄い衝撃がきたけど、今はそれに叫んでいる暇もない。側を通っていたらしいおばあさんが驚いて転びかけているのが視界の隅にうつっていた。
ごめんね、おばあさん!だけど今は勘弁してください!私は心の中で平謝りして、現実は拳骨で右ストレートを野郎にくれていた。
バキってい音がした。男は顔を両手で押さえて窓に寄りかかる。
「なんっ――――――何なんだお前は!!やめっ・・・」
「喧しい!あんた、人の滅多にない休日を、よくも―――――――」