女神の災難な休日


 雅洋の泣き声は聞こえない。あの揺れの中、まだ寝てくれているのだろうか。それとももしかして、もしかして・・・・。ええ!??

 心配になって、やつに攻撃をかましながらベビーシートを10秒間凝視する。小さな体がゆっくりと上下に動いているのを見て安心した。よっしゃ、いいぞ雅坊!そのまま寝ておいてね、お母さん、今ちょっと忙しいから~!!

 コンコンと窓を叩く音がする。体に巻きつくシートを何とか外してやつを足蹴りながらチラリと振り返ると、通行人が5,6人ほど窓から覗き込んでいた。

 きっと激しい夫婦喧嘩だって思っているんだろう。妻が夫をボコボコにしているとか、きっとそんな風に。私は指を伸ばして窓を開ける。そして叫んだ。

「警察に電話して下さい!!この男、強盗なんです!!子供が人質にとられてるんですーっ!!」

 ・・・・事実は、少しばかり違うけど。



 通行人の皆さんは、不機嫌そのものの顔をしていた。それはそうだろう、いきなり車が突っ込んできたのだから。きっと皆さん相当怖い思いをしたはずだよね。だけど必死の形相の私と、その私が言った言葉にちゃんと反応をしてくれたのだ。

 2人くらいの人が急いで携帯電話を取り出すのを見た。それから運転席に回った男の人が、コンビニ強盗のバカ男を引きずり出してくれた。・・・いや、それはもしかしたら私の攻撃から男性を守らねば、そう思ったのかもしれないけど。

 とにかく、男が出て行ったことで私はぐったりと助手席の窓にもたれかかる。ああ・・・良かった。


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