ストロベリー・キス
車の中では何も話さないまま10分くらい車を走らせると、徹兄は見たことのないマンションの駐車場に車を停めた。
「到着。ここが俺の新居。結婚を考えてる女と一緒に住もうと思って」
「それってもしかして……」
「そっ、美玖のこと。早く降りろよ」
勝手なこと言って偉そうに。でも嬉しさは隠せなくて、顔が自然とニヤけてしまう。
車から降りて徹兄の横に並ぶと、当たり前のように手を握ってきた。
朝までの態度の違いに驚きながらも、私の鼓動は違う意味で速さを増していく。
徹兄に部屋には何度も入ったことがある。子供の時だけど……。でもそれは、いつも1階におばさんたちもいて。特にドキドキもすることもなく。
高校生くらいになるとお互いに忙しくて、顔を合わせてもその場で話すくらい。
だから徹兄を意識し始めてから、限られた空間の中で二人っきりになるのは初めてで。
どうしたらいいのか、わからない。
緊張し過ぎて、口から胃が飛び出してきそうだ。
エレベーターで7階まで上がる。ドアが開いた目の前にあるのが、徹兄の部屋らしい。
「まだ大したもんは揃ってないけど、一応生活はできるようになってる」
照れくさそうに通されたリビングダイニングは、まだソファーとローテーブルしか置いていない。キッチンに冷蔵庫はあるけれど、料理ができそうな器具類は揃ってなさそうだ。
「美玖、こっち来て」
徹兄に呼ばれて、ソファーの隅っこに座る。
「…って、なんでそんなに離れて座るんだよ。俺の隣に座れって」
ボスボスと自分の隣を叩いて、早く来いと催促する。
こんな急展開。いい歳してても慣れてないから、ドギマギしてしまう。