にゃんこ男子は鉄壁を崩す
仕事に行く準備をして二人でタクシーに乗り込んだ。駅前を通り過ぎようとしたら、いるはずのない人がそこにいる。私は大急ぎで運転手さんに「あ、あの! 駅のところに戻ってもらっていいですか!」と言った。
駅の駐車場のガードレールに腰掛けていたのは紛れもなく――――
「火伊くん!」
「由比子さん! と……あれ? 小宮さん?」
驚いた表情で私ではなく、ミィコに見入る火伊くん。何か言いたげな火伊くんの様子を察したのか、ミィコは「ああ、ども。由比子、俺、こっから、バスで行くわ」と言った。
「あ……そう」
なんとなく寂しいような、名残惜しいようなそんな気がして。愛想のない返事をした。
「あ、忘れもん」
タクシーのドアを開けて出ようとしていたミィコが振り返った。予想していなかったわけではないけれど。避ける暇もスペースもなかった。
「あッ……んぐ」
「由比子、最近、嫌がらないね! いい傾向、いい傾向♪ 行ってきます!」
軽く触れた唇はすぐに離れた。嫌がらない、というかもう、諦めている、というか。別に恋人、という意識はないけれど、ミィコとのキスは何度もされていちいち怒るのも面倒になった、というか。
「由比子さん……」
おっと! 火伊くんの存在を忘れていた!