婚カチュ。


「ぬけてるっていうか不器用なんだよね。せっかく見た目がいいのに愛想がないから確実に損してるし。したたかさがないっていうか」
 

丁寧に巻かれた髪のあいだから小悪魔の角がのぞいた気がした。

女のしたたかさを遺憾なく発揮できるタイプの希和子はグラスについた口紅の跡を細い指先でぬぐい、上目遣いにわたしを見た。


「あと、シイちゃんはときどきメンドクサイ」

「面倒くさい? なにが」
 

投げやりに問うわたしに希和子は首を振る。


「んー、うまく説明できないな」
 

そう言って、通りかかった店員に串の盛り合わせを注文した。
 


職場から近いこの居酒屋はオフィス街の裏通りにひっそりと佇む焼き鳥専門店だ。

リーズナブルな価格で美味しい串料理を食べられるため、こぢんまりとした店内はいつもにぎわっている。

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