婚カチュ。


「えーじゃあもうオッケーじゃん。あっ」
 

突然思い出したように彼女はわたしの顔をのぞきこんだ。


「その弁護士さんが、シイちゃんが前に言ってた好きな人なの?」
 

心の奥で行き場を失っていた灰色の感情が、希和子の言葉でゆらゆらとうごめいた。
胸につかえて言葉が出てこず、自然と目が泳ぐ。


「……違うんだ?」
 

敏感な彼女はわたしの態度からすぐに正しい解答を導き出し、


「そっかぁ。うーん、そうなのかぁ」
 

細い首をぐるぐる回して、自分のことのように悩みはじめた。


「シイちゃんの好きなひとって、どんな人なの? 仕事とか、年齢とか」

「起業家で……25歳」

「ええっ!」
 

右手を伸ばして希和子の口をふたたび塞ぐ。
彼女が「音量を押さえます」というふうに何度もうなずいたので、わたしは手を離した。 


「それはまたアバンギャルドだね」

「アバンギャルド……?」

「なんか、前衛的っていうか?」
 

言い直して希和子はため息をついた。

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