婚カチュ。


「桜田さん、おひさしぶりですぅ」
 

振り向くと、隙のない微笑を湛えて、雑誌から飛び出してきたような美人女社長が傍らに立っていた。


「そうだ、希和ちゃんに紹介するわね。この子、うちの智也くん」
 

桜田さんに腕を引っ張られて、後ろから広瀬さんが姿を現す。唖然とするわたしの横で希和子が目を輝かせた。


「紫衣ちゃんのコーディネーターを担当してもらってるの」
 

桜田さんの言葉に、広瀬さんと目が合う。

彼は今日、メガネをかけていなかった。
相談所で見るようなスーツ姿ではなく、テーラードジャケットにポケットがたくさん付いたジーンズというカジュアルな装いをしている。


わたしに「こんばんは」と言うと、希和子に「はじめまして」と挨拶をする。
不機嫌なわけではなさそうだけど、笑顔はなく、無表情だった。
 

L字に作られたカウンターの奥に落ち着くふたりを見て、そういえばこの店は桜田さんの行き着けでもあるのだと思った。
相談所からも、わたしたちの会社からも近い。

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