婚カチュ。
 

「……しんどい」
 

思わずつぶやくと、希和子が「えっ?」と振り向いた。


「ううん、なんでもない」
 

首を振り、何食わぬ顔で話に戻る。
 

わたしは根っから恋愛体質ではないのだと思った。恋心なんて疲れるだけだ。



時間が経つにつれ希和子はくだを巻き、向こうの席でも桜田さんが見るからに赤い顔をしていた。


「ああんもう時間だぁ、あたし帰んなきゃ」
 

希和子が乗る路線は終電の時間が早い。


「あ、じゃあわたしも」
 

カウンターで会計を済ませたあと、桜田さんたちに挨拶をするために立ち寄った。


「桜田さんあたしたち帰りますねぇ、今度は一緒に飲みましょう」
 

明るく言う希和子に、女社長は赤い顔で無邪気に微笑み返した。


「ええ、気をつけてね」

「おつかれさまです」
 

出入り口に向かう希和子に続いて歩き出そうとしたとき、がっちりと腕をつかまれた。
桜田さんが細長い両手でわたしをホールドしている。

< 141 / 260 >

この作品をシェア

pagetop