婚カチュ。

 
「紫衣ちゃんはまだいいでしょう。一緒に飲みましょ」

「え、でも」
 

とっさに広瀬さんを見ると、彼は無言のまま首を振った。桜田さんには逆らえない、という言葉が頭をよぎる。


「き、希和子」
 

店から出ようとする友人に声をかけると、彼女はきょとんとした様子でわたしを見つめ、それから笑顔で手を振った。
 
先に帰るね、ということらしい。


「ほら、紫衣ちゃん座って」
 

桜田さんが空席になっているとなりの座面をばんばん叩く。

奥に座る広瀬さんに目を向けると、彼もどうぞ、というようにうなずいた。わたしは広瀬さんとのあいだに桜田さんを挟むという格好で席に着いた。


「何飲みますか?」
 

広瀬さんがカウンター前にかかったドリンクメニューを指差す。もうアルコールという気分じゃなかった。


「あ、いえ。じゃあウーロン茶で」

「ウーロン茶!」
 

言ったとたん、桜田さんが急に笑い出した。

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