婚カチュ。
 

「そういえば、二ノ宮さんは戸田さんから交際を申し込まれたんですよね」
 

急にアドバイザーの顔になり、広瀬さんは厳しい目でわたしを見る。


「答えは出ましたか?」



大人なのに酔いつぶれて若い男の子の膝枕で眠っている女の人。
大人なのにフレンチレストランで突然泣き出してしまう男の人。
 
大人と子どもの境界は、意外と曖昧なものなのかもしれない。
 

わたしは広瀬さんから目を逸らした。


「……お受けします」

「え?」

「戸田さんと、正式にお付き合いしたいと思います」
 

言いながら、からだが焦げ落ちていきそうだった。


「そうですか」
 

よどみない彼の声が、とても悲しかった。


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