婚カチュ。
すっかり酔いつぶれてしまった桜田さんを背負って、広瀬さんは大通りを走るタクシーを止めた。
慣れた様子で彼女を後部座席に押し込める。
「二ノ宮さんもお送りしますよ」
振り返ってわたしを見る目は、メガネのレンズを通さないといくらか優しい。
冷えた空気が頬を撫でていく。
すっかり夜の帳に覆われて、並び立つオフィスビルの足元だけが街灯にぼんやりと映し出されていた。
終電はとっくに終わってしまったというのに、通りの飲み屋にはまだ灯がともり、酔っ払いの顔があちらこちらに見られる。
「いえ、わたしは結構です。実はこのあと行くところがあって」
こんな時間に? というように、広瀬さんは凛々しい眉を持ち上げた。
わたしは黙ったまま、彼のきれいな顔を見つめた。
タクシーの後部シートにもたれる美しい女性とわたしのイケメンアドバイザーが睦みあう姿を、これ以上見るなんて耐えられない。
「あの、今日は社長が失礼しました」
後部座席に乗り込む前に、広瀬さんが言った。