婚カチュ。
4 ◇ ◇ ◇
本社ビルの7階からは遠くにスカイツリーを望むことができる。
わたしが入社したころは影も形もなかったそれは、いつのまにかビルの向こうににょっきりと背を伸ばし東京の低い空を衝いていた。
そんなシンボルマークを窓ガラス越しに背負い、課長がデスクからわたしを呼ぶ。
「二ノ宮、頼んでた管理表まだか。急ぎって言ったろ」
あわてた様子の課長はこれから会議を控えている。わたしは席を立った。
「さっきメモといっしょに机に置いておきました」
タバコのにおいを漂わせながら、課長は「どこだ」と書類やファイルが積んである雑然としたデスクを引っ掻き回す。
「机にただ置いておいてもダメだろ。人数分コピーせにゃならんのに」
わたしはパソコンモニターの目立つ場所に貼り付けた付箋をとって課長に見せた。作成した管理表はすでに必要な資料とともに会議の参加メンバーへと転送してある。
「課長のぶんはこちらです」
キーボードの上の書類束を拾い上げて手渡すと、課長は「むう」と声を詰まらせた。軽く咳払いをし、
「顔が恐いんだよお前は。もっと女性らしく笑ったらどうだ」
そんな捨て台詞を吐いてフロアの奥にある会議室へと向かっていく。締まりのないからだを揺らしながら遠ざかっていく背中に、小さく毒づく。
「愛想がなくてすいませんにーだ」
その瞬間、すぐそばで「ぷっ」と噴きだす声が聞こえた。