婚カチュ。
思わぬ言葉に、わたしは固まった。あまりの衝撃に呼吸を忘れる。
「凛々しくて、人に媚びなくて、素直で」
広瀬さんは物憂げに瞬きをして言葉を続けた。
「僕の周りには胡散臭い人間がわんさかいまして。みんな笑顔で近寄ってくるけど、腹では何を考えてるのか分からないんです。それと同じくらい、感情をむき出しにする女性も恐い」
25歳の青年は、お金と思惑が飛び交う広い世界で、吹き飛ばされないよう懸命に大地にしがみついている。
利益が大きいぶん、伴うリスクも大きい。信じられるのは自分だけ、という過酷な社会に身を置いて。
「起業したせいで人を信じられなくなったのかもしれない。でもあなたは……こういっちゃなんだけど、少し、うちの母親に似てます」
わたしは驚いた。
「広瀬さんのお母さん?」
「ええ。不器用なりに一生懸命なところとか。あ、すいません、母親に似てると言われても嬉しくないですよね」
ビールを一口飲んで、彼は苦笑した。