婚カチュ。
「俺はマザコンなんですよ。さっきの子が言ったとおり」
自虐的な笑みにわたしは首を捻る。
本物のマザコンは、きっと自分でマザコンだなんて言わない。
「広瀬さんのお母さんて、何されてるひとなんですか?」
わたしをじっと見つめて、彼は静かに答えた。
「起業家です。経営コンサルタントのようなことをしてます」
「え、親子で……。すごいですね」
「まあ俺はまだ未熟者ですけどね。母親が苦労してきたことを知ってるし、努力を続けてきたことも知ってるので、身内だけど実業家として尊敬してるんですよ。だからマザコンと呼ばれても反論はできません」
なんだか急に腹が立ってきた。
広瀬さんを平手打ちしたあの女の子は、きっと彼のことを何も知らない。ただ外見と実業家という響きに惹かれただけの薄っぺらな気持ちだったに違いない。
「お母さんが好きで何が悪いんですか」
怒りをぶつけるように、つい口調が荒くなった。