婚カチュ。
「え、なにか、予定あるんですか」
「相談所に行かなきゃいけなくて。アドバイザーに呼ばれてるから」
「相談所? 詐欺にでも遭ったんですか?」
「なんでそうなるのよ」
眉を寄せると松坂も首をひねる。
「法律相談じゃないんですか」
「違う。結婚相談所」
「けっ」
もともと大きな目がこぼれんばかりに見開かれる。突然の形相にわたしは顔をしかめた。
「け、け、け、け」
「なにその笑い方。こわい」
いきなり空気が消滅でもしたように口をぱくぱくと開けて、松坂はわたしを凝視している。そのまま電池が切れたように動かなくなった。
松坂の細長いからだ越しに16時を差そうとしている壁の時計が見える。
「時間そろそろじゃない? もう行かないと。わたしも戻――」
言いながらソファチェアから立ち上がった瞬間、
「先輩!」
「わっ」
大きな手に両肩をつかまれた。身動きができないほどの強い力に一瞬怯む。